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高丘親王航海記

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高丘親王航海記」 澁澤 龍彦

大学生の頃、澁澤 龍彦をよく読んだ。
私にとって忘れがたい作家である。

当時の私に意味が分かっていたのか?本当に興味があったのか?今となっては解らないが、氏の著作のほとんどは何らかの形で読んだように思う。

その中でも特に気に入っていたのが、氏の遺作となった「高丘親王航海記」である。
それを、ちょっと気になる事があって20数年ぶりに再読してみた。

若い頃とは違った視点で読めたような気がする。

平城帝の第三皇子であった高丘親王が天竺を目指し、南洋の國々を彷徨う物語に、氏独特のエッセンスがアナクロニズムを伴って随所に盛り込まれている。

親王の笛の音に誘われて、海から現れ人語を覚える儒艮(じゅごん)、夢を食べて夢の香りの糞を放る獏(ばく)、六百年後に新大陸で発見されるはずの大蟻食(おおありくい)のアンチポデス(地球の裏側に存在するもうひとつの存在)等々、読む者を幻想の世界に導いてゆく。

物語の随所に幼少の頃、かわいがられた薬子が夢ともうつつとも知れない姿で表れる。
死して後、卵生にて転生を願った薬子の存在が、親王を天竺へといざなう。

後半、真珠を飲んだ親王が、喉の痛みと共に自らの死期を悟るくだりは、咽喉癌で死の病床にて書かれた彼自身のもうひとつの物語でもあったのだろう。

物語は虎に喰われ、虎の腹中に抱えられ悠々と天竺に向かうことを決めた親王の骨を共の者が拾う場面で終わる。

そのくだりは以下のように書き記されている。

「モダンな親王にふさわしく、プラスチックのように薄くて軽い骨だった。」

おそらくは澁澤の骨も同じく、“プラスチックのように薄くて軽い骨だった”に違いない。

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